塚本謙一の包丁講座03【砥石】

【角砥石とは】
角砥石とは、人造の研削材を主原料に成型・焼成した人造砥石と、天然物ならではの研ぎ味を持つ天然砥石の2種類があります。
工業用から一般家庭、農家、本職等の方々の使用されている刃物や道具類のお手入れに、昔から"砥石"と呼ばれ幅広く愛用されています。

一般的に使用されるのは人造砥石
人造砥石の歴史は新しく、19世紀の終わりにアメリカで相次いで研磨材が製造されたことからスタートします。
天然物の砥石は高価なものになるので、よっぽどの拘りがなければ一般の方は使用しないと思います。

【人造砥石の原料】
1.主原料(砥粒=研磨材)
■炭化ケイ素質研磨材(JIS記号でC・GC系)
■アルミナ質研磨材(JIS記号でA・WA・PA系)
■上記2種を混合するもの。

炭化ケイ素質研磨材はケイ石とコークスを原料として、直径2mm~5ミクロンの大きさの六方体のゴツゴツと角が立った微粒子。最も硬く研削力がある。
主に荒砥・中砥の研磨材に使われている。

アルミナ質研磨材の主な原料はボーキサイトで、粒度は炭化ケイ素質研磨材とほぼ同じ。
炭化ケイ素に次いで硬く、砥粒はやや丸みを帯び、炭化ケイ素よりも柔らかな研ぎ味をつくる。
主に中砥・仕上砥の研磨材として使われます。


2.結合剤
人造砥石は科学的に作り出された主原料に結合剤を混ぜて成形し、焼き物と同じように焼き固めて仕上るのがほとんどです。
研磨材を結合させる結合剤には陶器の釉薬・碍子の原料(ガラス系)・セメント系物質・樹脂などがあります。

【主な製造法】
■ビトリファイド法
研磨材とセラミック質結合剤(陶器の釉薬など)を調合して、高圧で固めて高温で焼成して仕上げる。
主に荒砥~中砥が作られ、手研ぎ砥石の大半はこの製造法によります。

■マグネシア法(セメント系)
研磨材とセメント系の結合剤を調合して、練り固め乾燥させて仕上げる砥石。研削力はビトリファイド法に次いであり、なめらかな研ぎ味がある。
地鉄と鋼の境の波紋をきれいに出す場合によく使われる。主に中砥~仕上砥が作られる。

■レジノイド法(樹脂系)
研磨材とフェノール樹脂などの結合剤を調合して、約200℃で焼き固めて仕上げる。やや研削力は落ちるが、きめ細かい研ぎ味がある。主に中砥~仕上砥が作られる。

【砥石の種類】
■荒砥石
砥石の砥粒が粗い砥石で、刃欠けなど包丁の切れ味が極端に悪くなってしまった場合に用いることが多い砥石です。一般家庭で使用する包丁においてはそこまで出番が多い砥石ではありませんが、長く包丁を使っていく上で必要になるケースも出てくるのであって困ることがありません。

後述する中砥石や仕上げ砥石ではできない作業になるので、長く包丁を使用していくことを前提にしっかりと包丁のメンテナンスをしたい人にとっては必須となる砥石です。

■中砥石
刃の微調整など一般的な包丁の手入れに使われる砥石が中砥石です。砥粒が荒砥石ほど荒くないので比較的なめらかに刃を削って切れ味を取り戻すことができます。

一般家庭で普通に料理する場合なら中砥石だけあれば手入れを行っていくことができます。砥石をこれから使っていこうとする初心者の人はまず中砥石を使って手入れしていくことをおすすめします。

■仕上げ砥石
中砥石でついた傷を取り去ることができる包丁研ぎの仕上に用いられる砥石が仕上げ砥石です。通常の手入れなら中砥石でも可能ですが、さらに刃をなめらかに削ることによって食材の切り口をきれいにすることができます。料理にこだわる人は必要になる砥石なので用意していて損になることはありません。

それに加えて包丁を使うたびに仕上げ砥石で手入れすることによって切れ味はもちろん包丁の耐久性を持続することもできるので、こまめに手入れをしたい人にもおすすめの砥石となっています。

【包丁用砥石の選び方】
もっとも一般的な包丁といえば、ステンレスや鋼(ハガネ)といった金属ですが、最近ではセラミックやチタンといった硬度の高い金属や特殊な素材も使用されています。

そのため一般的な砥石では研ぐ事ができないケースもあるため、適当な砥石を選んで包丁をだめにしてしまう前に、自分の包丁にあった砥石を見つけるポイントを覚えておきましょう。

■鋼の包丁
鋼は硬い素材なので効率よく手入れをするには硬い素材を使った砥石が適しています。やわらかめの素材を使った砥石でも研ぐことは可能ですが、鋼が硬い分、砥石の表面が削れやすくなってしまうので適しているというわけではありません。

基本的には硬度が高いセラミック系の砥石が適していることを頭に入れておきましょう。

■ステンレスの包丁
基本的にはステンレス製の包丁にはやわらかめの砥石が適しています。ステンレスは鋼ほど硬度が高いわけではないので一般的に使われている砥石で問題ありません。

硬い砥石を使用してはいけないわけではなく硬い砥石を使っても研ぐことは可能ですが、やわらかめの砥石を使用するときよりも研いでいる感覚は薄いかもしれません。

■セラミック包丁
硬度が非常に高いセラミック包丁を研ぐ場合は上記の砥石では研ぐことはできません。セラミック包丁を研ぐ場合にはダイヤモンド砥石を使用することによってセラミックの硬度に負けることなく研ぐことができます。

しかしセラミック包丁が刃欠けなどをした状態だとダイヤモンド砥石を使用しても手間が非常にかかります。そういった場合はメーカーなどに修正してもらう方が手間や費用を考えるとメリットがあるので、メーカーが修正の対応をしているか念の為確認しておいたほうがいいかもしれません。